多読の読み物は、海外のシリーズだけではない。IBCパブリッシングのラダーシリーズは、日本の学習者向けに作られた英文リーダーで、レベルがTOEICや英検の目安とセットで示されている。しかも巻末には日本語のワードリストが付く。
辞書アプリを開くたびに物語から放り出される、という多読あるあるの事故が起きにくい設計だ。前回取り上げたOxford Bookwormsと並ぶ、もう一つの本命として紹介する。
レベルは「中学英語からの距離」で決まっている
ラダーシリーズはレベル1から5までの5段階で、語彙ははしご式に積み上がる。レベル1は中学校で習う約1,000語だけで書かれ、目安はTOEIC 300〜400点、英検4級程度。レベル2はそこへ頻出語を約300語足して1,300語(TOEIC 400〜500点、英検3級)。
レベル3は1,600語(500〜600点、英検準2級)、レベル4は2,000語(600〜700点、英検2級)。レベル5は語彙制限なしで、TOEIC 700点以上、英検準1級が目安になる。次の1段で何語増えるかが最初から見えているのが、このシリーズの気持ちよさだ。
始めるレベルの判定は単純でいい。見本のページを開き、知らない単語が1ページに2〜3語以下で、辞書なしに話の流れが追えるなら、そのレベルで正解。中学英語に穴がある自覚がある人はレベル1から。
英検3級やTOEIC 400点台を持っている人も、最初の1冊はレベル1でいい。多読の序盤は「やさしすぎる」くらいがちょうどよく、読み切る速度を作るほうが先だからだ。レベル2から始めて止まるくらいなら、レベル1を3冊流したほうが総語数は伸びる。
巻末ワードリストが、このシリーズの本体
各巻の巻末にはワードリストが付いていて、レベル1と2では本文に出てくる単語がすべて載っている。レベル3以上は、中学校レベル以外の単語が対象だ。意味は日本語で確認できる。分からない単語が出ても、本の後ろをめくるだけで済むから、読書の流れが切れない。
ここが、以前紹介したOxford Bookwormsで始める英語多読との一番の違いだ。Bookwormsの巻末にも語彙の説明はあるが、説明自体が英語で書かれている。
英語で意味を推測する訓練にはなるものの、初級者にとっては二段構えの負担になる。ラダーは「止まらないこと」を優先して、日本語の助けを惜しまず入れたシリーズだと言える。
ほかの観点もそろえておく。レベル表記は、ラダーがTOEICと英検への換算を前面に出すのに対し、BookwormsはCEFR(A1〜C1)対応。作品の顔ぶれは、ラダーが日本人になじみのある題材に厚く、『走れメロス』『吾輩は猫である』といった日本の作品の英訳、落語、日本を紹介するFAQシリーズまである。
Bookwormsは英米の名作と書き下ろしが中心で、世界中どこでも同じ棚で買える強さがある。買い方も違い、ラダーは1冊880円前後から単冊でそろえ、Bookwormsは10冊パックで単価を下げる向きだ。
最初の2冊は、物語と伝記で1冊ずつ
1冊目は『グリム名作選』(レベル1)。「ヘンゼルとグレーテル」「かえるの王子」など、筋をすでに知っている短編が8篇入って、総語数は約13,550語。知っている話は英語の負担が目に見えて下がるので、多読の1冊目にはこれ以上ない条件だ。短編形式だから、1話ごとに読み切った感触も得られる。税込880円。
2冊目は『アインシュタイン・ストーリー』(レベル1)。総語数は約9,480語で、同じレベル1でも物語ではなく伝記に振る。ジェイク・ロナルドソンによる「ストーリー」系の伝記はエジソンやガンジーも同じ棚に並んでいて、人物で選ぶ楽しさがある。
物語ばかりだと飽きる日が出てくるので、ジャンルの受け皿を早めに作っておくと棚全体が長持ちする。税込990円。2冊合わせて約23,000語が、最初の到達点になる。
1冊の回し方。ワードリストは読む前にも開く
読み方は三段で固定する。まず巻末のワードリストをざっと眺め、知らない単語の意味だけ先に頭に入れる。次に本文を辞書なしで最後まで読み、止まりそうになった単語だけ巻末に戻って確かめる。
そして読み終えたら、カバー裏かノートに日付、タイトル、総語数、面白さを5段階で記録する。レベル1と2は全単語がリストに載っているので、「調べものに行って戻ってこない」が起きない。この安心感が、序盤の継続をかなり助ける。
読み切った本は、音声でもう一周すると定着の仕方が変わる。IBCパブリッシングは多くの巻に朗読音声(ダウンロード音声やオーディオブックス)を用意していて、目で追った文章を耳で確かめる使い方ができる。その聴き込みには、『語学中毒。』運営が作っているリスニング練習アプリRehearも使える。
物語の山場だけ区間リピートで繰り返す、といった細かい聴き方がしやすい。読んだ本の音声は内容を知っているぶん耳に入りやすく、多読とリスニングを1冊で二度おいしくする組み合わせだ。押しはしないので、まずは読むほうを進めてほしい。
レベルを上げるタイミング
レベル1を3〜4冊読み終えて、ワードリストに戻る回数が目に見えて減ったら、レベル2へ上がる合図だ。レベル2の入口には『ロミオとジュリエット』(総語数約11,070語)や『星の王子さま』(約14,600語)のような、筋を知っている作品を置くといい。
レベルが上がる回よりも、ジャンルを散らす工夫のほうが脱落を防ぐ。童話、伝記、名作、短編を交互に置く並べ方を先に決めておくと、「次に何を読むか」で迷う時間が消える。
向いているのは、辞書で止まる癖を断ちたい人と、TOEICや英検の数字で現在地を測りたい人、それから日本の作品や日本のことを書いた英語から入りたい人。逆に、英語の説明で意味を取る訓練をしたい人や、CEFRで棚を管理したい人はBookwormsのほうが合う。
両者は敵ではなく、ラダーで「読み切る体力」を作ってからBookwormsの名作棚に移る、という継ぎ方も普通にありだ。買うなら、まずグリムとアインシュタインの2冊から。回し方まで決めてから買うのが、この棚の正しい始め方になる。
購入は『グリム名作選』(ラダーシリーズ レベル1)と『アインシュタイン・ストーリー』(ラダーシリーズ レベル1)から。
